退去時の掃除は、「生活でついた汚れを一通り落とすレベル」で十分です。新品同様にする必要はなく、経年劣化による変色や日焼けまで元に戻す義務もありません。
ただし、どの場所を掃除するかで退去費用に差が出ます。キッチンの油汚れや浴室のカビは借主負担とされやすい一方、壁紙の日焼けやフローリングの自然な色落ちは掃除しても費用が変わりません。やるべき場所と、やらなくても問題ない場所の境界線を知っておくだけで、ムダな労力を省きながら敷金を守れます。
退去時の掃除は「原状回復」の範囲が基準になる
退去の掃除で「どこまでやるか」を判断するには、まず原状回復の考え方を押さえておく必要があります。国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」では、原状回復を次のように定めています。
「賃借人の居住、使用により発生した建物価値の減少のうち、賃借人の故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗・毀損を復旧すること」
つまり、普通に暮らしていて自然に劣化した部分は大家さん(貸主)の負担であり、借主が元に戻す必要はありません。一方で、手入れを怠って汚れが固着した場合や、不注意で傷をつけた場合は借主の負担になります。
| 区分 | 具体例 | 費用負担 |
|---|---|---|
| 通常損耗・経年劣化 | 壁紙の日焼け、家具の設置跡、フローリングの自然な色落ち | 貸主(大家) |
| 善管注意義務違反 | 掃除を怠ったカビ、放置した油汚れ、タバコのヤニ、ペットの傷 | 借主(入居者) |
ここが退去掃除の判断軸になります。自分の不注意で汚した部分は掃除して費用を減らせますが、経年劣化に当たる部分はどれだけ磨いても退去費用に影響しません。
居住年数で借主の負担割合は下がる
国交省ガイドラインでは、設備や内装の耐用年数に応じて借主の負担割合を減らす考え方が採用されています。主な耐用年数は次のとおりです。
| 設備・内装 | 耐用年数 | ポイント |
|---|---|---|
| 壁紙(クロス) | 6年 | 6年以上住めば残存価値はほぼ1円 |
| カーペット・クッションフロア | 6年 | 壁紙と同じ扱い |
| エアコン・ガスコンロ | 6年 | 設備機器として減価償却 |
| フローリング | 建物の耐用年数(木造22年 / RC造47年) | 部分補修は経過年数を考慮しない |
| 浴槽・便器・洗面台 | 15年 | 長期入居ほど負担減 |
たとえば6年以上住んだ部屋の壁紙であれば、仮にタバコのヤニで黄ばんでいても、残存価値がほぼゼロのため借主の追加負担は最小限になります。居住年数が長い人ほど、掃除の「やるべき範囲」は狭くなると覚えておきましょう。
掃除すると退去費用が変わる場所ベスト5
すべての場所を完璧に掃除する必要はありません。退去費用への影響が大きい場所に絞って重点的に手を入れるのが効率的です。優先度が高い順に紹介します。
| 優先度 | 場所 | 主な汚れ | 費用への影響 |
|---|---|---|---|
| ★★★★★ | キッチン | 油汚れ・焦げつき | 非常に高い |
| ★★★★☆ | 浴室 | カビ・水垢 | 高い |
| ★★★★☆ | トイレ | 黄ばみ・尿石 | やや高い |
| ★★★☆☆ | 壁・スイッチ周り | 手垢・黒ずみ | 中程度 |
| ★★☆☆☆ | ベランダ・窓サッシ | 土・ホコリ | 低め |
1. キッチン(コンロ・換気扇・シンク)
油汚れの固着は「手入れを怠った」と判断されやすく、清掃費の上乗せに直結する場所です。特にコンロ周りの焦げつきと換気扇のフィルターは、立会い時に必ずチェックされます。
- コンロの五徳や天板は重曹ペーストを塗って20分放置→こすり洗い
- 換気扇フィルターはアルカリ性洗剤に浸け置き(40〜50℃のお湯で30分)
- シンクの水垢はクエン酸スプレーで落とし、排水口のヌメリも忘れずに
2. 浴室(カビ・水垢・排水口)
浴室のカビは「換気を怠った結果」と見なされることが多く、善管注意義務違反に該当しやすい項目です。特にゴムパッキンに根を張った黒カビは、退去時のクリーニング費を上げる要因になります。
- カビ取り剤をゴムパッキン・タイル目地に塗り、ラップで覆って30分以上放置
- 鏡や蛇口の水垢はクエン酸水をスプレーして拭き取り
- 排水口の髪の毛やヌメリも必ず除去する
3. トイレ(便器・床・壁)
便器内の黄ばみや尿石は放置期間が長いほど落ちにくくなります。トイレ用酸性洗剤を便器内に塗布して30分ほど放置し、ブラシでこすります。
- 便座の裏側・フタの裏はトイレ用シートで拭き取り
- 床と壁の下部も飛び散り汚れが付きやすいので、拭き掃除を忘れずに
- ウォシュレットのノズル周りも拭いておく
4. 壁の手垢・スイッチ周り
照明スイッチの周辺やドアノブ付近は手垢で黒ずみやすい場所です。中性洗剤を薄めた布で拭くだけで見違えるほどきれいになります。壁紙のシミや汚れも「通常の手入れで落ちるレベル」なら自分で対処したほうが費用を抑えられます。
5. ベランダ・窓サッシ
窓サッシのレールに溜まった土やホコリは歯ブラシと掃除機で除去します。ベランダの排水溝に枯れ葉やゴミが詰まっている場合も撤去しておきましょう。窓ガラス自体は通常損耗の範囲ですが、汚れがひどいと立会い時の印象に影響します。

掃除しても費用が変わらない場所を知っておく
退去費用を減らすために掃除は大切ですが、どれだけ磨いても費用に影響しない場所もあります。無駄な時間を使わないために、以下のケースは「やらなくてOK」と割り切りましょう。
| 場所・状態 | 理由 |
|---|---|
| 壁紙の日焼け・変色 | 通常損耗であり貸主負担。6年超の入居なら残存価値もほぼゼロ |
| 家具の設置によるカーペットのへこみ | 国交省ガイドラインで通常損耗と明記 |
| フローリングのワックス剥がれ | 経年劣化として扱われる |
| 画鋲の穴(壁紙) | 通常の生活で生じる程度は貸主負担 |
| 網戸の張替え(経年劣化の場合) | 入居年数に応じて貸主負担の割合が増加 |
賃貸借契約に「退去時のハウスクリーニング費用は借主負担」という特約がある場合、掃除をどれだけ頑張ってもクリーニング代は発生します。退去前に契約書を確認し、特約の有無と金額の記載をチェックしておきましょう。特約で金額が明示されていれば、その額は原則として覆りません。
自分でやるか業者に頼むか|判断の分かれ目
退去前の掃除を自分でやるか、業者(退去前クリーニング)に頼むかは、汚れの程度と間取りで判断するのが合理的です。
| 項目 | 自分で掃除 | 業者に依頼 |
|---|---|---|
| 費用 | 洗剤・道具代で2,000〜3,000円程度 | 1R〜1K:1.5万〜3万円 |
| 所要時間 | 1R:3〜5時間 / 2LDK:丸1日 | 2〜4時間(プロの作業時間) |
| 仕上がり | 見た目はきれいになるが限界あり | 専用機材でプロの仕上がり |
| 向いている人 | 軽い汚れ・1R〜1Kの物件 | 水回りの汚れがひどい・広い物件 |
判断のポイントは次の2つです。
- ハウスクリーニング特約がある場合:退去後に管理会社指定の業者が入るため、自分で掃除すれば十分。業者に二重で頼む必要はない
- 特約がない+水回りの汚れがひどい場合:退去前クリーニングを頼んだほうが、結果的に退去費用の請求を抑えられることがある
退去前クリーニングを頼む場合、引越しシーズン(3〜4月)は料金が10〜20%割増になる傾向があります。引越し日が決まったら早めに見積もりを取ると、通常料金で依頼できることが多いです。
退去1週間前からの掃除スケジュール
荷造りと並行して掃除を進めるなら、1週間前から逆算してスケジュールを組むのが現実的です。以下の流れで進めると、引越し当日にバタバタしません。
| 時期 | やること | 目安時間 |
|---|---|---|
| 7日前 | 賃貸借契約書で原状回復・クリーニング特約を確認 | 15分 |
| 5〜6日前 | 換気扇フィルターの浸け置き、不用品の処分 | 1時間 |
| 3〜4日前 | 浴室のカビ取り、トイレの黄ばみ除去 | 1.5〜2時間 |
| 2日前 | キッチンの油汚れ落とし、シンク磨き | 1〜1.5時間 |
| 前日 | 壁の手垢拭き、窓サッシ清掃、ベランダ掃除 | 1時間 |
| 当日(荷物搬出後) | 床の掃除機+水拭き、部屋全体の写真撮影 | 30分〜1時間 |
荷物をすべて搬出した後、部屋の状態を全方向から撮影しておきましょう。日付が入るカメラアプリを使うと、万が一のトラブル時に証拠として役立ちます。入居時にも撮影していれば、退去時との比較ができるため、不当な請求を防ぐ強い根拠になります。
まとめ|退去前の掃除で確認すること
退去時の掃除は「どこまでやるか」を見極めることが大切です。やりすぎても費用が変わらない場所がある一方、手を抜くと請求額が跳ね上がる場所もあります。最後にポイントを整理しておきます。
| 項目 | ポイント |
|---|---|
| 掃除の基準 | 原状回復=通常損耗は大家負担、故意・過失の汚れは借主負担 |
| 優先する場所 | キッチン油汚れ、浴室カビ、トイレ黄ばみ、壁の手垢、窓サッシ |
| やらなくてよい場所 | 壁紙の日焼け、家具跡のへこみ、フローリングのワックス剥がれ |
| 業者に頼む目安 | 水回りがひどい or 広い物件。特約ありなら自分で掃除でOK |
| スケジュール | 1週間前から逆算。当日は床掃除と写真撮影だけにする |
まずやるべきことは、賃貸借契約書を開いて「原状回復」と「クリーニング費用」の特約を確認することです。特約の有無で掃除の戦略が変わるため、退去日が決まったら最初にチェックしてみてください。
退去費用の相場や間取り別の目安を詳しく知りたい方は、こちらの記事も参考にしてみてください。
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