結論:退職金にかかる税金は、勤め先に「退職所得の受給に関する申告書」を1枚出すだけで源泉徴収まで完結し、確定申告は基本的に不要です。さらに勤続20年なら800万円、勤続30年なら1,500万円までは退職所得控除で非課税。控除を超えた部分も「課税対象は1/2に圧縮」される優遇税制になっています。
この記事では、2026年5月時点の国税庁公式情報をもとに、退職金の税金の計算式・勤続年数別の控除早見表・ケース別シミュレーション、そして申告書1枚で源泉徴収を終わらせる手順までを、フリーランス側の私が会社員時代を振り返りつつ整理します。
結論|退職金は「申告書1枚」で源泉徴収だけで完結する
退職金(退職一時金)は、給与や賞与と切り離された「退職所得」として分離課税されます。勤め先で源泉徴収まで終わらせる仕組みになっているため、原則として確定申告は不要です。ただしそれは 「退職所得の受給に関する申告書」を退職前に勤務先へ提出した場合に限る点が最大の注意ポイントです。
申告書を出さないと、退職金の総額に対して一律20.42%(所得税20%+復興特別所得税0.42%)が天引きされてしまいます。本来なら数万円で済むはずの税金が、勤続20年・退職金1,000万円のケースで204万円も先取りされる計算です。後から確定申告すれば戻ってきますが、半年〜1年は資金が拘束されるため、申告書1枚の有無で手取りスピードは大きく変わります。
みくのリアル:私は2020年8月に新卒で入った広告代理店を退職する際、人事から渡された茶封筒の中に「退職所得の受給に関する申告書」が入っていました。当時は何の書類か分からず、ネットで「出さなくてもいい?」と検索しまくった末に提出。結果、退職金120万円から天引きされた税金は0円でした。もし出していなかったら約24万円が先取りされていたので、あの茶封筒は本当に大事な1枚でした。
退職金の税額の計算式|課税対象は半分に圧縮される
退職金の税額は、「収入金額(額面)→退職所得控除を引く→残った金額の半分が課税対象→所得税と住民税をかける」という4段階で計算します。給与所得と違って 「1/2課税」と「分離課税」の2つの優遇があるのが特徴です。
計算式の全体像
| 項目 | 計算式 |
|---|---|
| ① 退職所得控除 | 勤続20年以下:勤続年数×40万円(最低80万円) 勤続20年超:800万円+70万円×(勤続年数−20年) |
| ② 課税退職所得 | (退職金 − 退職所得控除) × 1/2 |
| ③ 所得税 | 課税退職所得 × 税率 − 控除額(速算表) |
| ④ 復興特別所得税 | 所得税 × 2.1% |
| ⑤ 住民税 | 課税退職所得 × 10% |
勤続年数に1日でも端数があれば1年に切り上げて計算します。たとえば「19年6か月」は20年、「20年1か月」は21年として扱うので、退職時期を1日ずらすだけで控除額が40万円〜70万円増えるケースもあります。
所得税の速算表(2026年5月時点)
③の所得税は、課税退職所得に応じて以下の超過累進税率を当てはめます。退職金は分離課税なので、給与所得とは切り離してこの数字だけで計算できます。
- 課税退職所得195万円以下:税率5%(控除額0円)
- 195万円超〜330万円以下:税率10%(控除額97,500円)
- 330万円超〜695万円以下:税率20%(控除額427,500円)
- 695万円超〜900万円以下:税率23%(控除額636,000円)
- 900万円超〜1,800万円以下:税率33%(控除額1,536,000円)
- 1,800万円超〜4,000万円以下:税率40%(控除額2,796,000円)
- 4,000万円超:税率45%(控除額4,796,000円)
退職金は控除と1/2課税で圧縮されるため、税率は驚くほど低い枠に収まることが多いです。私の周りの会社員(勤続25年・退職金1,500万円クラス)でも、課税退職所得は175万円となり最低税率の5%枠に収まっていました。私自身、フリーランス転身前に会社の退職金試算ツールで確認したときも、額面は3桁万円なのに想定税額は1桁万円。「これは申告書1枚を出さない手はない」と確信した瞬間でした。「退職金にどれくらい税金がかかるか」は、まず控除額と1/2圧縮を知るだけで体感が変わります。
勤続年数別 退職所得控除の早見表【5〜40年】
退職所得控除は「①勤続20年までは1年あたり40万円ずつ積み上がる」「②20年を超えると1年あたり70万円ずつに加速する」という2段ロケットになっています。長く勤めるほど控除カーブが急になるため、勤続21年目以降は1年延ばすだけで70万円の非課税枠が増える計算です。

| 勤続年数 | 退職所得控除額 | この金額までは税金ゼロ |
|---|---|---|
| 5年 | 200万円 | 200万円 |
| 10年 | 400万円 | 400万円 |
| 15年 | 600万円 | 600万円 |
| 20年 | 800万円 | 800万円 |
| 25年 | 1,150万円 | 1,150万円 |
| 30年 | 1,500万円 | 1,500万円 |
| 35年 | 1,850万円 | 1,850万円 |
| 38年 | 2,060万円 | 2,060万円 |
| 40年 | 2,200万円 | 2,200万円 |
厚生労働省の「就労条件総合調査」(令和5年版)によれば、大学卒・管理職の定年退職金の平均は約1,896万円。勤続35年(控除1,850万円)で受け取っても課税対象になるのは退職金 − 1,850万円のさらに半分なので、ほとんどのケースで課税退職所得は50万円以下に収まり、税負担は10万円前後で済むイメージです。
みくのリアル:夫は同じ会社で勤続15年目を迎えます。仮にいま退職金を1,000万円受け取ると、控除600万円を引いた残り400万円の半分=200万円が課税退職所得。所得税10万2,500円・住民税20万円・復興特別2,153円で約30万円。逆にあと5年勤めて勤続20年で同じ1,000万円なら控除800万円で、課税退職所得は100万円。税金は約15万円と半額になります。「あと5年で税金が半分」は地味に効きます。
ケース別シミュレーション【勤続10年・20年・30年・40年】
計算式と早見表だけだと実感が湧きにくいので、勤続年数と退職金額の組み合わせで「結局いくら手取りになるのか」をシミュレーションします。すべて「退職所得の受給に関する申告書」を提出した前提です。
| 勤続年数 | 退職金(額面) | 退職所得控除 | 課税退職所得 | 税額合計 | 手取り |
|---|---|---|---|---|---|
| 10年 | 300万円 | 400万円 | 0円 | 0円 | 300万円 |
| 15年 | 500万円 | 600万円 | 0円 | 0円 | 500万円 |
| 20年 | 1,000万円 | 800万円 | 100万円 | 約15.1万円 | 約984.9万円 |
| 25年 | 1,500万円 | 1,150万円 | 175万円 | 約26.4万円 | 約1,473.6万円 |
| 30年 | 2,000万円 | 1,500万円 | 250万円 | 約40.6万円 | 約1,959.4万円 |
| 35年 | 2,500万円 | 1,850万円 | 325万円 | 約55.7万円 | 約2,444.3万円 |
| 40年 | 2,500万円 | 2,200万円 | 150万円 | 約22.7万円 | 約2,477.3万円 |
表を見ると、退職所得控除の範囲内(額面≦控除額)であれば税金はまったくかかりません。控除を超えた部分も、税率5〜10%の最低ランクに収まることが大半で、所得税より住民税10%のほうが目立つ印象になります。同じ退職金2,500万円でも、勤続35年と40年で手取りが約33万円違うのは、「20年を超えると控除が年70万円ずつ伸びる」の効きが大きいからです。
私はフリーランスWebライター歴5年で退職金制度がないため、上記の早見表を「会社員の友人と老後資金を比較する物差し」として手元にコピーしています。同年代の会社員夫婦と話すと、退職金を1,500万円〜2,000万円見込んでいる人が多く、フリーランスの私はその差を埋めるためにiDeCoで毎月6.8万円積み立てて準備しています。退職金は「税制優遇込みの長期賃金」と捉えるのが正解だと、自分が制度の外側に出てから痛感しました。
「退職所得の受給に関する申告書」の書き方と提出先
退職金を税金で目減りさせないための最重要書類が「退職所得の受給に関する申告書」(国税庁様式)です。記入は10分で終わり、提出先は 勤務先(退職金の支払者)。税務署に持っていく必要はありません。
記入項目は大きく5つだけ
- 受給者の氏名・住所・マイナンバー
- 退職手当の支払者の名称・所在地
- 勤続期間(入社年月日と退職年月日)
- 勤続期間中に他の会社からも退職金を受け取っているか
- 過去4年以内(確定拠出年金は19年以内)に他の退職金を受け取った場合は、その金額と勤続期間
テンプレートは国税庁のサイトからPDFをダウンロードできますが、多くの会社では退職手続きの一環として総務・人事から自動で配布されます。私の元職場では退職届を出した翌週に「退職金関連書類一式」として封筒で渡され、退職日の2週間前までに人事へ返却するルールでした。
提出を忘れると何が起きるか
提出を忘れた場合、退職金の支払い時に一律20.42%の所得税等が源泉徴収されます。本来の税額より明らかに多く取られるため、損を取り戻すには翌年2月16日〜3月15日の確定申告で精算する必要があります。e-Taxを使えば自宅から申告可能ですが、半年以上は還付金が手元に戻りません。「申告書1枚で全部終わるはず」の手続きが「確定申告まで持ち越し」になる点が、最大のデメリットです。
みくのリアル:同期だった元同僚は退職時にバタバタしていて申告書を出し忘れ、退職金300万円から61万円も先取りされたと嘆いていました。翌年2月にe-Taxで確定申告し、6月にようやく満額還付されたそうですが「半年も無利息で国に貸した気分」と苦笑い。退職時の書類は一通り目を通してから返却するのが鉄則です。
確定申告したほうがお得になる3パターン
申告書1枚で完結するのが原則ですが、退職した年に限り、自分で確定申告をしたほうが税金が戻ってくるケースもあります。代表的な3パターンを整理します。
パターン1|年の途中で退職して年末調整を受けていない
会社員は通常12月の年末調整で1年間の税額を精算しますが、年の途中で退職して年内に再就職しなかった場合は年末調整が行われません。そのままだと給与から多めに天引きされた所得税が戻ってこないため、確定申告で給与所得分を精算する必要があります。退職所得そのものは申告不要ですが、給与分の還付のために確定申告書に退職所得も記載するのが基本です。
パターン2|医療費控除・寄附金控除・住宅ローン控除を使う
医療費が年間10万円を超えた・ふるさと納税をしたワンストップ特例の枠を超えた・住宅ローン控除1年目で確定申告が必要、といった事情がある人は、もともと確定申告をする立場です。この場合、申告書に退職所得を記載することで、所得税と住民税の控除上限がより正確に計算され、結果的に還付額が増えるケースがあります。
パターン3|退職金が控除額より少なくて、申告書未提出だった
たとえば勤続10年(控除400万円)で退職金300万円を受け取り、申告書を未提出だった場合。本来は税金ゼロのところ、額面300万円から20.42%の61.26万円が源泉徴収されています。確定申告すればこの61.26万円が満額戻ってくるので、忘れず申告するのが大切です。
みくのリアル:私自身、フリーランス1年目の2021年3月の確定申告で「前職の退職金欄」を書くか迷いました。退職時に申告書を出していたので退職所得そのものは書かなくていいのですが、医療費控除を申請したかったので念のため税務署の電話相談センターに確認。「申告書提出済みなら退職所得は不要、医療費控除だけ通常通り」と5分で答えてもらえました。退職した年は確定申告のルールが少し変わるので、迷ったら電話相談が一番早いです。
2026年からの注意点|iDeCoとの「10年ルール」
会社の退職金とiDeCo(個人型確定拠出年金)の両方を一時金で受け取る予定の人は、2026年1月施行の制度改正に注意が必要です。これまでは「先にiDeCoを一時金で受け取り、5年あければ退職金にも満額の退職所得控除が使える」という「5年ルール」が有名でした。これが 2026年以降は「10年ルール」に変更されています。
具体的には、退職一時金を受け取った年の前年以前9年以内(=過去10年間)に他の退職金を受け取っていると、退職所得控除の重複部分が調整され、控除額が圧縮される可能性があります。iDeCoを60歳で一時金、退職金を65歳で一時金など、間隔を10年あけられないケースでは想定より税負担が増えるため、退職前に金融機関や勤務先と受取スケジュールを設計しておきましょう。
解決策としては「iDeCoを5年・10年・20年などの有期年金で分割受取に切り替える」「退職金を5年確定年金で受け取り、iDeCoを一時金で受け取る」など、片方を年金形式にして控除制度を別枠で使うパターンが王道です。受取方法を変えるだけで税負担が100万円単位で変わることもあるため、退職5年前くらいから具体的にシミュレーションを始めるのがおすすめです。
みくのリアル:夫は会社員ですが、退職金とは別にiDeCoも積み立てています。10年ルール改正のニュースを2026年1月に夫婦で確認し、「退職金は65歳で一時金、iDeCoは60歳で一時金」のプランを変更。iDeCoは60歳から5年確定年金で取り崩し、65歳の退職金一時金とぶつからないように調整しました。受け取り順を変えるだけで税金が変わる、というのが退職金制度のリアルです。
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よくある質問
Q1. 退職金が控除額以下なら、本当に税金は0円ですか?
はい、退職所得控除の範囲内であれば所得税・住民税ともに0円です。勤続10年・退職金400万円以下、勤続20年・退職金800万円以下なら課税退職所得そのものが発生しないため、申告書を出しておけば天引きもされません。控除を超えた部分も1/2に圧縮されてから課税されるため、税率5〜10%の最低ランクに収まることがほとんどです。
Q2. 申告書を出し忘れたら、もう取り戻せませんか?
翌年2月16日〜3月15日の確定申告で精算すれば、源泉徴収された一律20.42%との差額が還付されます。e-Taxを使えば自宅で30分ほどで完結し、還付金は申告後1〜2か月ほどで指定口座に振り込まれます。忘れていた場合も、退職した年の翌年から5年以内であれば「還付申告」として申告可能です。
Q3. 役員退職金も同じ計算式ですか?
基本的な計算式は同じですが、勤続5年以下の役員(特定役員)への退職金は「1/2課税」の優遇が使えません。短期間で多額の退職金を受け取る役員報酬節税スキームを防ぐ目的で2013年に改正された制度で、課税対象は控除後の全額になります。また勤続5年以下の従業員でも、300万円を超える部分は1/2課税が適用されない「短期退職手当等」のルールが2022年から始まっています。
Q4. 退職金を分割でもらうと税金は変わりますか?
変わります。退職一時金として一括で受け取ると「退職所得」として分離課税+1/2課税の優遇が使えますが、退職年金として分割で受け取ると「雑所得(公的年金等)」になり、毎年の所得に合算されて総合課税されます。一括受取の方が税金は安く済むことが多いですが、運用利回りや使い道で年金受取が有利になるケースもあります。会社の制度書を見ながらシミュレーションするのが安心です。
Q5. 自己都合退職と会社都合退職で、退職金の税金は変わりますか?
税金の計算式自体は変わりません。退職理由ではなく「勤続年数」と「退職金額」だけで税額が決まります。ただし会社の退職金規程で支給率が変わるため、額面の退職金そのものに差が出ることはあります。失業保険の給付制限の有無や、特定受給資格者の認定などは別の制度なので、税金とは切り離して考えるのが正解です。
まとめ|退職金は申告書1枚で「ほぼ非課税」にできる
退職金は税制上、給与や賞与より圧倒的に優遇されています。今日の要点を3行でまとめます。
- 退職前に「退職所得の受給に関する申告書」を勤務先へ提出すれば確定申告は不要
- 勤続20年で控除800万円、勤続30年で控除1,500万円。さらに超過分も1/2に圧縮
- 2026年1月からはiDeCoとの「5年→10年ルール」に注意し、受取スケジュールを再設計
次のアクションは、まず自分の入社日と退職予定日から勤続年数を計算し、本記事の早見表で退職所得控除額を確認すること。会社の退職金規程に書かれている見込み額と比較すれば、いまの時点で税金が発生するかどうかが30秒でわかります。受取スケジュールに迷ったら、税務署の電話相談(自動音声で「2番」→所得税)か、国税庁公式タックスアンサーNo.1420ページを参照すると確実です。
みくのリアル:私はフリーランス転身で退職金リセット組なので、夫の退職金シミュレーションは月1回スプレッドシートで更新しています。勤続年数・退職金見込み額・iDeCo一時金・受取年齢を1枚にまとめると、税負担が想像以上に少ないこと、そして「あと数年勤めるだけで控除が大きく伸びる年がある」ことが一目でわかります。退職金は人生に1度〜2度のイベントなので、シミュレーションは早めに始めるほどお得です。